確かもう7,8年前のことだと思う。芦ノ湖スカイラインを経て三島から熱海方面に向う途中に通行量のすくない道路沿いに小さなおしるこ屋があって立ち寄ったことがある。そこは、三島の町を下に見渡し、富士山が眼前に一望に見える素晴らしい眺望のお店だった。三島から熱海に抜ける道路は山道で通行量もすくなく、いつもひっそりとしている。おしるこ屋に立ち寄ったが、人の気配もなかったが、しばらく待ったら奥から50歳ぐらいの女性が出てきたので、おしるこを注文した。その女性は、もう20年ものあいだこの店に足を運び毎日富士に向ってお店を運営してきた。一日中、一人もお客が来ないときもあるというのだ。ひっそりとした山道にあるいつ客が訪れるかもわからないお店に20年間勤めている女性に会った時、私は20年ぶりの客だと思ったので、そのとき20年ぶりの客、と題して日記を書いた。30歳ぐらいから、20年間もの間毎日富士を眺め、静かに齢を重ねて行った女性に感動したからである。

そのしるこ屋が閉店していた。車をおりてよく見たが、休みではないようだ。草木が伸びきっていて、手入れがされていない。しばらく人が訪れていない気配だ。でも、まだ、最近までやっていたような気配も感じる。20年ぶりの客になってから、それから5年ぐらいはまだ、やっていたのかも知れない。だとすれば、私が訪れるのを待っていたのだが、ついに来なかったので、閉店したのかもしれない。もう少し早くくればよかった。